ニュースを見ない生活にはデメリットがないと思っていたが……

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(C)九条太輔 箕面の山 ハイキングコースにて

「ニュースを見ると不幸になる」という真理に気づいてから、ニュースはほとんど見ていない。見ないどころか、意識的に排除するような生活をしている。ニュースを見ない生活は、時間に余裕が生まれ、不幸に接触する回数が減るのでとても快適だ。

だが、世の中の多くの人間はニュースが大好きなようだ。それは既存の大手メディアを「マスゴミ」と揶揄するネット民も例外ではない。ネット民は「ネットはマスゴミと決別した」というような物言いをするわりには、どうもマスゴミ様が発信するニュースが大変お好きな様子である。世の中は今日もそんな調子なので、PV数を重んじるネットメディアは、ネット民がご所望のマスゴミ様が発信する「お金と不幸を生み出すニュース」を至る所で無責任に垂れ流している。

どこかの殺人事件を知ったところで、何が出来るのだろうか。もし本気で殺人事件をなくしたいのであれば、覚悟と信念を持ち、世の中を変えるための具体的な行動をしないといけない。SNSで被害者への「テンプレお悔やみコメント」によって注目を集めてきても、飲み屋で「事件についての講釈」を垂れても、社会は何も変わらない。政治家のプロレスを見ている暇があるなら、法律でも勉強して、まともな政治家を選ぶための素養を磨くべきだ。

ニュースを見ない生活にたいしたデメリットはないと思っていた。ニュースを知らなくても本当に重要な事柄なら後で誰かが教えてくれる。世の中の人間はどんな馬鹿でもニュースが大好きだ。だから、いちいち自分の貴重な時間を使って、律儀にアップデートする必要はない。

しかし、このような考えを揺るがす事件が起こった。それは俺の住んでいる近隣において警察官を襲い、拳銃を奪い取るという凶悪な事件が起きたのだ。そして、その犯人は俺の頻繁に通うハイキングコースの「箕面の山中」にいるところを捕獲された。

犯人が逮捕された日の早朝、俺は始発で箕面の山に向かう準備を呑気にしていた。始発で行くと、六時前には目的地に到着する。ニュースを見ない生活をしているので、当然、近場でそのような凶悪事件が起こっていることなど知りもしない。たまたま始発まで少し時間があったのでyoutubeを見て5分ほど暇を潰そうと思った。すると偶然、youtubeのトップ画面に近隣で凶悪事件が発生したことを伝えるサムネイルを目にする。普段はそのようなサムネイルを見ても動画は見ないが、近場だったし、万が一自分にも影響があるかも知れないと思い、一応確認する事にした。すると「警官から拳銃を奪った犯人は未だに逃走中」との事だった。

俺は動画を見て、逃亡犯があまり計画的なタイプに思えなかった。犯行現場の千里山付近は比較的裕福な住宅街と商業地が一体になっている地域で、人が多すぎず、少なすぎずといった感じなので、怪しい人間が思いつきで潜伏するには向いていない。それこそ商店やマンションなどに設置された監視カメラが所狭しと点在しているので、行動は世間に筒抜けになる。

もしも、自分が準備せずにあの地域で潜伏するならどこだろうか…… 答えはすぐに出た。それは俺がこれからハイキングに向かおうとしている「箕面の山」だ。

推理小説じゃあるまいし、そんな妄想が現実になるわけないと自分自身を嘲笑していたが、念のためにその日のハイキングは中止した。そしてその日の午後、「早朝6:30分に箕面の山中で犯人確保」の情報を知った。自分の推理力を自画自賛する反面、本当に肝が冷えた。もしも、ニュースを偶然見ることなく現地に行っていたら、犯人と鉢合わせしていたかもしれない。そして撃ち殺されていた可能性も十分ある。

俺はこの出来事がきっかけでニュースをまったく見ない生活の危険性を実感することになる。だからといって、「これからは毎日ニュースを見るようにしよう」という風になるのかといえば、そんな簡単な話ではない。このような十年に一度起きるか、起きないか分からないような事のために、毎日ニュースを見るべきなのだろうか。なんだか保険に入るのが得かどうかを考えている気分になってくる。

結局妥協点として、一番マシなニュースサイトのヘッドラインだけを毎朝、一瞬見るようにすることにした。それで世の中の流れも大雑把にはつかめるし、自分にリスクがあるかもしれないニュースを知ることができる。一瞬であっても朝から悲惨な事件を意識するのは気分がよくないが、仕方ない。

嫌々ニュースを見る俺としては、なるべくストレスのかからないニュースサイトがあればと思うが、そんなもの存在しない。

自分にとっての理想のニュースサイトとは、

・ニュースがない日は更新なし
・無理してニュースを作らない
・事実だけを淡々と伝える
・芸能やスポーツなどを混ぜない

とりあえずはこの辺だろうか。絶対にこんなサイトは存在しないだろうが……

勤勉な日本人が運営するネットメディアに「更新がない日」などまずない。雨の日も風の日も、なんなら戦争が起きても、隕石が降ってきても、彼らは新しい”ニュース”をそれらを望む民に、滞りなく届けてくれるだろう。

労働における勤勉は絶対的な美徳のように語られるが、勤勉に付き合わされる方も中々大変である。